Cuba

空港を降りたった途端に、草を抜いたときにふっとする、あのちょっと緑がかった、けれどもとても乾いているようなにおいがした。おぉ、キューバのにおいはこんなか!なんて一緒に飛んできたケンタくんと話した。割とあっさりとした入国審査を終えて、空輸した自転車を受け取るためにベルトコンベアへ。

 

次々と四角い口からはきだされてくるスーツケース達を見ながら、そのとなりのOVERSIZEと書かれたところで自転車が出てくるのを待つ。メキシコからの同じ便に乗っていたキューバ人が空輸した荷物がそこからは次々とはきだされてくのだが、液晶テレビと室外機付きのエアコンが何十個も出てくる。ついには4個組の自動車のタイヤまで出てきた。社会主義国のキューバ、国内では流通していないのか、値段が高いのかは分からないが、こうしてお金のあるキューバ人は国外でこういった自国では買えない生活用品を買って帰ってくるのだろう。最後の最後に僕の自転車もバコッと口から出てきてひと安心。さあ旅がはじまる。

 

キューバから再び飛行機でメキシコに戻るのに、この国では恐らく自転車用のダンボールが手に入らないので市街地まではタクシーで向かうことにした。運良くバンタイプのタクシーを拾うことができて、いざ市街地へ。あーワクワクしてきたー。

 

空港から伸びる道路はなんだかちょっとだけ薄っぺらく見えて、走っている車は映画で見るような車幅が広くてザ・アメリカというようなクラシックカーやその少しあとの時代の四角いちっちゃい車。おー馬車まで走ってる。意外と緑も多くて、同じような高さで葉っぱの大きな南国の木々が広がるところを抜け市街地へと入っていく。

 

ヨーロッパ植民地時代の建物があったかと思ったら、その隣のブロックに50年代ごろに作られたであろう当時の「未来」をイメージしたちょっと変わった形をしたマンションのような建物がポコポコ建っている。メキシコやラテンの国で多い、路上で物売りしている人たちはほぼいなく、よーく見ると何かを売っていそうな商店や食堂のようなものがちらほら見えるけれど、歩道には歩いていたり、おそらくバスを待っているのであろう人たちしか見えない。頭の中に勝手に社会主義のイメージが入っているので、こういうちょっと寂しいイメージはそれと重なるし、けど古いアメ車や色とりどりの服や小物でオシャレをしたメキシコよりも色が濃くて、黒人に近いキューバの人たちの華やかさがそれとマッチしない。おーこれは頭が忙しいぞ。今まで行ったどの国にも当てはまらないこんな感覚に、もう僕はこの国を好きになりかけている。

 

ハバナ中心部のヨーロッパ風のでっかい建物を横目に路地に入っていって、目的のカサ(自宅兼宿泊施設)に到着した。キューバでは僕ら貧乏旅人が使うゲストハウスのようなものはなく、高級ホテルか政府から認可を受けて営業するカサと呼ばれる民泊を利用するしかない。4階建てくらいあるヨーロッパ風の建物の3階にカサがあるのだけれど、入り口のドアは開いていない。左上にあったベルのようなものを押してソワソワしていたら、上から声が聴こえてきた。ベランダから顔を出したおばちゃんが僕らにスペイン語で何か叫び、その次には小さなぬいぐるみの付いたカギが降ってきた。なんだこの展開は!

 

自分たちでカギを開けて、背の高い手すりのついたつづら折りの階段を登りきるとカサに到着した。高い天井のリビングはさながらヨーロッパのようだ。人懐っこさそうな笑顔で迎えてくれたおばちゃん。くるくるした白髪で黒人さんのようだけどやはりキューバ顔(としか言いようがないのだ)に説明してもらいながら宿帳に記入をして、僕らはその天井の高いリビング横の3つベッドの部屋になった。クーラーも付いて快適そうだ。

 

さっとシャワーを浴びて、まだ濡れた髪のまま、さっきおばちゃんが顔を突き出していたベランダに出た。一瞬目がくらむような太陽の光が入って景色が白く抜けて、そこから向かいの建物や通りの景色が浮かんできた。僕らがいるのと同じような建物がズラッと並び、その奥には何だろう国会議事堂の屋根みたいなやつが顔を出している。右手の奥には摩天楼のようなとんがったビル。向かいの建物に並ぶベランダには僕と同じように顔を出して通りを眺めている人、ロッキングチェアに座る人、通りの人と上と下で会話をしている人もいる。そこかしこに日常が溢れていて思わず笑みがこぼれた。あかん。キューバ楽しそうすぎる。

そろそろシャワー終わったころかな、「出かけようぜー!」とケンタくんを誘うために僕は部屋へと向かった。