Stars

サンティアゴ・デ・クーバの朝。

宿のベランダから外を眺めると仕事に向かう人たちの姿。

並ぶ家々の前では、通りを眺めるじいさんばあさんたち。じいさんばあさんが友達なのだろう声をかけていたり、自転車で颯爽と走っていく人が誰かの名前を大きな声で呼んで手をあげていたり。なんかこの1日のはじまりに感じる、さあ今日もはじまるぞ、という感じが映画のALWAYS三丁目の夕日に出てくる商店街を僕に思い出させた。

さあ僕も行こう。宿の兄ちゃんにお礼を言って走りはじめた。僕もこのなんか導かれるような流れに乗っていくのだ。1日のはじまりの儀式のように。

 

町外れのおっきなバス停を抜け、メイン道路は右手に曲がってまっすぐ伸びていく。

僕は左にルートをとった。地図とにらめっこしていたときに、左のこのルートはだいぶ遠回りになるけれども、海に沿ってずっと走っていてなんだか惹かれた。

大きな橋からサンティアゴデクーバの町が見えた。そして目の前に広がるのは工場と、ちょっと頼りない道路。さぁ行きますか。

 

まっすぐのびる道路の脇にはときどき民家が現れる。四角くて、屋根はトタンのようで同じカタチのものがいくつも並ぶ。なかにひとつだけちょっとだけ大きな建物があって、たいてい白やエメラルド色のペンキで塗られたそこにはキューバの国旗が掲げられていて、だれかの白い上半身の像がある。道路脇にも看板があって、そこには主にチェケバラが英雄となったキューバ革命に関するさまざま言葉やイラストが並ぶ。こういうのを見ると、この国が社会主義国なのだと改めて感じさせられる。

 

そんな風にいろいろ考えめぐらせながら走っていたら、遠くから人がはしゃぐ声が聞こえてきた。カーブを抜けると、景色がひらけた。海だ!少し湾のようになっているところには、たくさんの人が泳いでいる。砂浜には売店だろうか茅葺き屋根の小屋が立っている。そして大きなスピーカーから流れるラテンの音楽。

海を覗き込むとちょっと深いところはコバルトブルー、浅いところは透き通るような水色。なんだか勝手にここも島国のはずなのに、こういうビーチがキューバのイメージと結びついていなかった。旅をしてるとこういう感覚にたくさん出会う。ああ泳ぎたい。

 

いくつかこういうビーチを走り抜けながら、泳ぐこともできずに、照りつける太陽から逃げるように屋根のあるバス停で休憩をして、を繰り返して先に進む。なんだか最後のビーチを抜けたあたりから一気に交通量がなくなり、道もずいぶん頼りなくなってきた。ほんとに半島グルっとまわれるんだろうか。地図に反映されていないだけで、どこかで道路が流されたりして道が途切れてしまっているんじゃないだろうか・・・。前に進むためにペダルを回しながら、心はすこーし後ろ向きな時間。そんなことをしていたら、目の前にほんとに土台が落ちそうな橋が現れたりする。けどいまさら引き返せないし前進あるのみ。

 

日が落ちるころ、いよいよ道は怪しくなり、左手は海。右手は崖。間の道路はひょろひょろのオフロードになってしまった。もうこうなれば例えダメだってもネタだ、ネタ!とビデオを回しながら走ったりしていたら目の前に大きな橋が見えてきた。橋の上にのっかると左手は下に海岸が、右手には山の谷に沿って小さな道が伸びている。橋の下は枯れた川のようになっていて砂地が見える。降りてみるか。

 

ちょうどよい平らな砂地と、屋根はちょっと高いところに橋がある。これなら少しの雨も大丈夫そうだ。何より山から谷に沿って風がおりてくるのがほんとにありがたい。風のおかげで蚊も寄ってこれないので汗をかいた服を脱いでテントを張った。ちょっと緊張するけど、明日の朝まで無事に過ごせますように。カバンに残っていた、きな粉をチョコレートで固めたようなお菓子をかじって、水を飲んで、テントの上からUSBチャージャーにファンをつけたものをぶら下げてパンツ一丁で横になった。

 

夜中ふと目が覚めて、トイレへ立つためにテントのジッパーを開けて息を飲む。ものすごい数の星だ。空一面を埋め尽くしている。まだ目もしっかり開いてなくて、雲だと思っていた筋もだんだんと目が慣れてくると天の川だと分かった。なんてこった、なんて思っている間にも流れ星がサッと空を横切る。

星以外はなんにも見えないほど真っ暗で、平衡感覚掴みづらくフラフラしながらテントに戻りカメラと三脚をつかんでは、しばらく撮影をしていた。パンツ一丁で。