Work




メキシコの旅では、僕は毎日「どこか」の人だ。
小さい町では、歩く旅みんなに見られる。
カナダ、アメリカと多民族国家をしばらく旅してきたので、もちろんメキシコも
いろんな民族の人はいるけれども、パッと見だけで分かりやすい外国人は僕だけ。

昨日のフラッと入った市場。キョロキョロしている僕を見て、
雑貨屋のおばちゃんが声をかけてくれた。どしたの?

どこか食堂ある?と片言のスペイン語で聞いた僕に丁寧に教えてくれた。
「うんとね、市場のやつは真っ直ぐ行って右に曲がればあるわ!」

奥の食堂が並ぶ列は、もうどこも店じまい中。あれーちょっと遅かったか。
と皺のたっぷり刻まれたばあちゃんが僕に声をかけてくれた。
「あんた何か食べる!?これしかないけどいい!?」
お鍋の中には日本で言う肉じゃがみたいなのが入っていた。
「じゃあお願い!」

ばあちゃんが僕のために食事の用意をしてくれる。
お鍋を火にかけて、食器を取り出し、トルティーヤを皿に分ける。
「これがフォークね、これはピカ(辛いよ)、飲み物は?」
「じゃあ、お水ちょうだい!」
お水を入れてくれたばあちゃんは、お片づけか?

厨房や食器を綺麗にしていく。タワシのゴシゴシ言う音が聞こえてくる。
きっと毎日ずっとこうして来たんだろうな。まわりの食堂からもゴシゴシゴシ。
ばあちゃんどこかに行ったなーと見ていたら、氷を持って帰って来た。
慣れた手つきでガシガシ大きな氷を砕いていく。
どうすんのかな?食材の保存用かなー?なんて見ていたら、
「はい!これで冷たくなるよ!」
と、ゴロンと僕のコップに氷を入れてくれた。
あれまーばあちゃんわざわざそのためにどこかで買うてきてくれたんかいなー。
ありがとう。

そのあとも、ばあちゃん観察をしていた。
もう70歳は越えてはりそうやけど・・・。ほんまに毎日こうしてここで食堂を
切り盛りしてはるんやろうなぁ。動きのひとつひとつに時間が溶けてるみたいに感じた。
食べ終わってお金払ってしたら、
「今日はもう終わりやったからね。明日やったらまたたくさんオカズあるからね」
ということを言ってくれた。ばあちゃん明日は来られへんけど、けど嬉しいご飯やった。


ばあちゃんのこと伝えたくなって、写真を撮らせてもらった。
ええ人生ってなんやろう。
自分でええと思えるのが、ええ人生。
ばあちゃんはどっちに思ってはるやろうか。そんなことは僕には分からへん。
けれども、ばあちゃんはきっと毎日を丁寧に生きてはるんやろうなと思った。

やってることは毎日同じかもしれない。
けど毎日、目の前に来たお客さんには同じではないだろう。
その時々に声をかけ、またそのお客さんのために何かをしてはるんやろう。